本物の日本文化遺産を愛する士に寄す

岩波文庫の創立者 岩波茂雄師は、真理や芸術を少数者の書斎や研究室より解放し万人に届けた。
同様に吾人は昭和49年創業以来、本物の日本文化遺産を通し、師の経営哲学を具現化してきた。
万人の欲する文化遺産とは、例えば子供の頃アメ玉を買うため握りしめていた二銭銅貨の如く、万人が愛し、
時代の重さや香りを含んだ文化遺産である。しかし、それらは古物商の奥に死蔵され、店頭に飾られているのは、
全く馴染みのない珍品や希少なそればかりである。この現状を憂え、吾人は万人の欲する本物の日本文化遺産を、
手頃な価格と手軽な方法により万人に配布してきた。またそれは子々孫々愛蔵され、人間須要なる生活向上の資料、
生活批判の原理を提供せんと欲す。世間の一時の投機的なるものと異なり、永遠の事業とし吾人は微力を傾倒し、
あらゆる犠牲を忍んで今後永久に継続発展せしめ、もって本物の日本文化遺産の使命を遺憾なく果たさしめるを期す。
芸術を愛し知識を求むる士の自ら進んでこの拳に参加し、希望と忠言とを寄せられんことを熱望する。その性質上、
経済的にも最も困難多きこの事業にあえて当たらんとする吾人の志を諒として、その達成のため、
世の本物の日本文化遺産を愛する士とのうるわしき共同を期待する。

平成二年一月　保野　栄三